※もし三上さんが4人姉弟の長女ではなく、5人姉弟の次女で、上に姉がいたらシリーズ。風間さんお相手。捏造注意。




私の大学には、ボーダーの人が結構いる。例えば、私の斜め前に座っているこの小柄な男。彼も低身長ではあるが、A級3位風間隊の隊長を勤める実力者だ。
私はボーダーの関係者ではないし、彼とは一度も話をしたことがないのだけれど、彼のことは一方的によく知っていた。何故なら、



「お姉ちゃん!私、風間蒼也さんっていうすごい人が隊長のチームに入ったんだよ。」



私の妹、三上歌歩は風間隊のオペレーターをしているからだ。





風間さんと三上姉





風間蒼也という男は、私と同じ学部で同じ学科だからよく顔を合わせる。履修している授業もほとんど一緒だ。けれど、彼は全く喋らないわけではないけど、どちらかと言えば無口な方だし。私もフレンドリーな性格ではなかったから、話すことなんて今まで一度も無かった。
だから、彼はきっと私のことなんて苗字くらいしか知らないと思う。そう告げると、妹はオムライスを食べる手を止めて、頬をぷくっと膨らませた。



「なんで?!せっかく風間さんと同じ学科なんだから、仲良くすれば良いのに…!」

「……なんで、歌歩は私と風間くんを仲良くさせたいのよ。」



私は何故か怒り出す妹を放って、オムライスを一口。……うん。我ながら、おいしいわ。

両親は仕事で長らく家を留守にしているし、歌歩はボーダーの仕事で毎日忙しい。だから、年の離れた弟妹達の面倒を見るのも、家事をやるのも必然的に長女である私の仕事となった。
そのおかげか、私の面倒見の良さと料理の腕前はメキメキと上がっていき、お母さんには「これなら、すぐにでもお嫁に行けちゃうわね〜」とお褒めの言葉をいただいた。まあ、肝心のお相手がいないんですけどね!
ちなみに、得意料理は弟妹達に大人気のカレーとオムライスである。……なんか私、おかん臭いかな。

時間を見れば、もう8時だ。わいわいお喋りしながら夕飯を食べている弟妹達に、私はパンパンッと手を叩いて言った。



「ほーら。お皿を洗いたいから、みんな早く食べ終わってね!」



私はガタッと音をたてて立ち上がると、食べ終えた自分のお皿をシンクまで運んでいく。それを見た歌歩は、慌てて最後の一口を頬張り、「ごちそうさまでした!」と言って席を立った。下の弟妹達も「「「ごちそうさまでしたー!」」」と声を合わせる。うん、いい挨拶だ。



「食べ終わったら、順番にお風呂に入っちゃってねー。」

「「「はーーい!!」」」



元気な弟妹達の返事を聞いて、よしと頷く。さあ、今のうちにさっさと皿洗いしちゃいますか!そう思っていると、「私も手伝うよ」としっかり者の次女、歌歩が自分の食器と、ついでに弟妹達の分まで運んできてくれた。さすがはできた妹である。

私は礼を言って、歌歩からお皿を受け取った。弟妹達のお皿はどれも綺麗で食べ残し一つ見られない。作った側からしたら、これはとても嬉しいことだ。歌歩もそれに気づいたのか、ふふっと微笑みを浮かべた。



「お姉ちゃんのご飯、今日もすごく美味しかったよ!星5つ!」

「あはは、ありがとう。」



腕まくりをしてから蛇口を捻ると、冷水が流れ出す。「私が洗うから、歌歩は拭いてくれる?」とお願いすると、歌歩は二つ返事でOKした。



「ねえ、お姉ちゃん。」

「んー?」

「風間さん、本当に良い人だよ。」

「……なーに、またその話?」

「だって、お姉ちゃん。もう21歳なのに、彼氏いたこと一度もないし。男友達0人だし。…このままじゃ、一生独身かもしれないでしょ?こんなに料理上手なのに勿体ない!」

「歌歩ちゃん、色々と失礼だよ。」



洗い物をしながら、私は苦笑を浮かべる。……いや、心配してくれるのは嬉しいけどさ。別に、まだ大丈夫じゃない?
お姉ちゃん、三十路までに結婚できればいいって思ってるし。そう告げると、歌歩は「ちなみに今、私は彼氏いるよ?」と爆弾を落としてくれた。

ええっ、歌歩ちゃん!!?



「ま、待って、まだ歌歩って16歳でしょ?!」

「あのね、お姉ちゃん。今時、小学生だって恋愛してるんだよ?むしろ、16なんて彼氏いない方が変なんだから。」



最後のお皿を吹き終わった歌歩は、「お姉ちゃんも早く相手見つけなよ」と呆れた顔で言ってから、「あ。風間さんお勧めだからね!」と付け足して、足軽く自分の部屋に戻っていった。
そして、私はというと。風呂から上がった弟に声をかけられるまで、呆然とその場で立ち尽くしていた。







「三上ちゃん。これからカラオケ行かない?」

「ごめん!今日、妹が夕方から仕事らしくて…早く帰って弁当作ってあげなきゃいけないの。」



大学の講義が終わり、慌てて帰りの仕度をする私に、仲の良い友達は「そっか。残念!」と苦笑を浮かべた。ごめん。この埋め合わせは必ずするから…!

友達と別れた私は、スマホを取り出してメール画面を開いた。歌歩はもう帰宅している頃だろう。『ごめん。思ってた以上に講義が長引いちゃった!今から急いで帰るね!』そう打って、送信ボタンを押そうとした、そのとき。
いつも通りの無表情だけれど、どこか少し困ったように見える彼の姿が、私の視界に入りこんできた。



(あれ、風間くんだ。)



なにしてるんだろう。私は首を横に傾ける。私の妹がこれから仕事なのだから、当然隊長である風間くんも仕事のはず。それなら、早く帰宅した方が良いのではないか。
しかし、どうしてか彼は帰ろうとせず、ただ自分の手にある書類のようなものをじっと見つめている。私は不思議に思って、その書類を遠目で眺めた。……うん?確かあれって、今日が締め切りの、



(ああ、なるほど。)



彼が帰れずにいる理由を理解した私は、先程打っていた歌歩へのメール文の最後を消した。そして、『ごめん。思っていた以上に講義が長引いちゃった!夕飯は適当に買って食べてください。』という文を打って送信する。…たぶん、これで大丈夫だろう。

私は、スマホをポケットに仕舞いこむと、眉間に皺を寄せ、未だ悩み続けている風間くんの元へ足を向ける。そして、彼に初めて話しかけた。



「ねえ、」



すると、表情の変化が少ない彼にしては珍しく驚いた様子で、その赤い瞳に私をうつした。



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